農薬は”薬”ではなく殺生物剤(バイオサイド)

有害な合成化学物質のなかでも、農薬は何らかの生物を殺す殺生物剤なので、人体にも悪影響を及ぼす可能性が高い。

農薬の歴史

 人間は長い歴史の中で、安定な食料確保のために農作物の栽培を行い、病害虫や雑草を減らすために多大な苦労をしてきました。19世紀末から農薬が使われるようになり、まず天然物(除虫菊、ニコチンなど)や簡単な無機化合物(硫酸銅や石灰など)が使用され、さらに第二次大戦後にDDT、BHCなど有機塩素系農薬が欧米より入り、本格的な合成農薬の使用が始まりました。前述したように有機塩素系農薬は大量に使用された後で、生態系やヒト、動物への悪影響が判明し、ほぼ使用禁止にされたのですが、難分解・蓄積性のために未だに世界中が汚染され、日本人も全員が曝露している状態が続いています。

 

 生命は、46億年にわたる長い地球の歴史の中で生まれ、進化を続け、人間はその「頂点」に立つ別個の生き物に見えるかもしれませんが、長い歴史を背負い、生命に共通もしくはよく似た生理活性物質を多く利用しているのです。そのため人間に全く無害で、害虫や雑草、病害菌だけを殺し、有益な昆虫や植物、微生物のみを生かすような物質を作ることは不可能といっても過言ではないでしょう。実際、これまで農薬は大量に使用してから、ヒトへの毒性が判明して代替物を作るという歴史を繰り返してきました。その反省の歴史もあって、多種類の毒性試験を行い、ADI(一日摂取許容量)を決めて使用しているのですが、前述してきたように新たに判明した毒性(環境ホルモン影響、発達神経毒性、エピジェネティクスへの影響)や複数の農薬の複合影響については検査していないのが現状なのです。

農薬の種類

 農薬は標的により、害虫には殺虫剤、雑草には除草剤、病原菌には殺菌剤などいろいろ種類があります。農水省では、殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、植物成長調整剤、誘引剤、展着剤(付着効果を上げる)、天敵、微生物剤に分けています (http://www.maff.go.jp/j/
nouyaku/n_tisiki/tisiki.html#kiso1_1)

 

 ここでは使用量の多い3種類の農薬として、発達神経毒性が問題となる殺虫剤と、環境影響の大きい除草剤(及び遺伝子組換作物の問題)、環境ホルモン作用や発癌性などが多数報告されている殺菌剤について触れたいと思います。なお、農薬全般の毒性については詳しい専門書(植村振作, 辻万千子, 河村宏. 農薬毒性の事典 第三版: 三省堂書店; 2006)、殺虫剤の発達神経毒性についての詳しい説明や文献は、拙著拙稿などをご覧ください。

農薬の毒性記事一覧

殺虫剤は脳神経系を標的にしているので、人間の脳神経系、ことに子どもの脳発達に悪影響を及ぼすものが多い。有機リン系、ネオニコチノイド系、ピレスロイド系、カルバメート系、フェニルピラゾール系などについて解説し、新しい論文を紹介する。

除草剤は雑草を枯らすための農薬ですが、不要な雑草だけを枯らす薬剤は原理的に不可能で、人間にとっては雑草でも生態系の維持に役立っていることもあります。ですから標的が雑草とはいえ、除草剤をむやみに乱用すると生態系の維持が破綻する可能性があります。また植物と動物は違う進化の道をたどってきましたが、元は同じ生命で、使っている生理化学物質も同じもの、類似のものがたくさんありますから、除草剤の毒性は、植物だけ...

殺菌剤は農産物に感染する病原菌を殺す農薬で、代謝系や細胞分裂、タンパク合成、核酸合成を阻害するなど、多様なメカニズムを介した作用があります。これらの過程には生物に共通もしくはよく似た生理化学物質が関わっているため、殺菌剤は病原菌を殺すだけではなく、人間や他の生き物への毒性や環境ホルモン作用などが後から判明して、登録が失効になったものが多数あります。

日本から農産物を輸出する際、農薬残留基準が緩いため、もしくは未登録の農薬を使っているため、リジェクトされて輸出できない事例が多く報告されています。そのため、農水省では輸出向けの農産物は、海外の各国の農薬残留基準を確認して、国内向けよりも厳しい残留基準で農産物を作るようHPで指導しています。http://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/zannou_kisei.h...

・ 現在、ドローンを用いた農薬の空中散布を急速に推進し、今年3月にも規制緩和を実行しようとしている(内閣府・規制改革推進に関する第4次答申H30 11月19日)。https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/publication/opinion2/301108-2honkaigi.pdfドローンでは量を積めないので、使用する農薬を高濃度に緩和し、また使...

米国、カナダの研究者らが公的勧告を発表胎児期や発達期の子どもの脳発達に有機リン系農薬の曝露は低濃度でも危険で避けるべきOrganophosphate exposures during pregnancy and child neurodevelopment: Recommendations for essential policy reformsIrva Hertz-Picciotto , Jen...

1. 発達神経毒性農薬登録のための毒性試験には、これまで発達神経毒性が入っていなかった。農水省は、平成31年4月以降に、発達神経毒性を項目として入れたことを発表している。http://www.acis.famic.go.jp/shinsei/index.htmただし、△マークがついていて、必須項目とはなっていない。以下のよう但し書きがついている。神経毒性や繁殖毒性等の他の毒性試験の結果から、成熟動...