汚染水中のトリチウムのヒトへの危険性 --海に放出されれば、食物連鎖により魚など海産物に濃縮される!

 最近大変心配なのは、福島事故で大量に溜めた原発由来のトリチウム汚染水(処理水)を海へ流すという動きだ。大体、原子力発電は通常稼働するだけで、原子炉内の重水素が中性子を捕獲して、大量のトリチウム水ができる。

 

 東電は炉心溶融した原子炉を放水で冷やしたこともあり、膨大な汚染水を敷地内のタンクに溜め続けている。東京電力はこの汚染水を多核種除去設備(ALPS)で “浄化している”と称しているが、トリチウムなどは除去出来なかった。そこで「トリチウムは安全だ」と称して海へ放出しようとしている。しかも重要なことは、この“処理水”はトリチウムだけでなく、実は処理出来ない、ヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106、テクネチウム99などの放射性物質も残留しており、更に危険なことだ。

 

 最近の米国の有力紙:ニューヨーク・タイムスに、いわき市の現地取材による克明な記事が載り、「汚染水」を海に流そうと言う悪巧み、ひいてはオリンピック誘致での、日本政府の“安全宣言”のウソは世界中に知られてしまった。
Japan Wants to Dump Nuclear Plant’s Tainted Water. Fishermen Fear the Worst.(日本政府は汚染水を海に流そうとしている。漁民の恐れ、最悪)
https://www.nytimes.com/2019/12/23/world/asia/japan-fukushima-nuclear-water.html

 

 トリチウムは弱いエネルギーのβ線を出して、違う原子:ヘリウム3に変わる。
トリチウムが厄介なのは、化学的には水素と同じで、生体内のDNAなど核酸,酵素など蛋白質、糖、脂肪などあらゆる有機物にある水素に、直ぐに結合する性質だ。この有機結合型とリチウムは、生命の基本分子DNAの二重らせん構造を破壊するので、発ガンなどさまざまな人体影響がある。それ以外でも、人体を構成する有機物には一般に沢山の水素が付いていて、人体がトリチウムを含んだ水に汚染されると,全身に広がった水の中のトリチウムと水素が直ぐに置き換わり、脳を含む全身に内部被曝する。

 

 この有機結合型トリチウムが放射線を出す他の核種にない,全く別の生物影響をもたらす。ヒトなど生物に対するトリチウムの慢性毒性は特別強く、直接DNAなどに有機物結合し致命的に働くので、医学/生物学に詳しい研究者からは、今まで危険視されてきた、ヨード、セシウム、ストロンチウムなど内部被曝する他の問題核種とは比べ。白血病など発ガンを初め、ヒトの健康に大きく広い最終影響(エンドポイント)を持つと考えられる。

 

 トリチウムは体内の殆どの有機物と直接結合し慢性毒性をもつ。その毒性メカニズムは、単なる放射線影響より全くと言っていいほど違い、研究が難しいためか余り研究が進んでいない。しかも、肝心の数字が少ない論文間で大きく食い違っている。毒性の強い「有機結合したトリチウム」の生体内の割合がたった5%から、50%まであり、1桁の差があり危険度は大きく違う。その中の都合の良い論文だけの結果を引用して、“トリチウムの影響は弱く、安全だ”と主張している者がいる。

 

 前世紀起こった、英国セラフィールドの核施設周辺で多発した小児白血病は、もちろんまず放射線の影響が疑われ沢山の疫学論文がでた。しかし広島・長崎の原爆では、明確に放射線で小児白血病が増えたが、英国のデータはそれまで知られた問題核種のだす各放射線の影響だけでは理解できない現象もあり、いまだに最終結論は出ていない。2014年、英国のウェイクフォード(マンチェスター大・環境医学)は「トリチウムや炭素?14の白血病への影響の研究はまだ無く、影響が分っていないだけで、同じ放射性物質でもトリチウムなどによる小児白血病へのリスクは、現在までのセラフィールド研究では考えに入れられていなためだ」と警告している(R. Wakeford, Radiation and environmental biophysics 53, 365-379, 2014)。

 

 自閉症などの発達障害では、精子、卵子のDNAの新規の突然変異(de novo mutation)が、発症に因果関係があることが、既に科学的に確定している。これは受精の際の問題だが、その後胎児が成長すると、脳細胞のDNAは特に活発に活動して脳を共発達させて行く。トリチウムは脳細胞でも、被曝した細胞のDNAに変異を起こし、異常を生じさせる。この異常の程度にはいろいろあるが、最悪の場合には、DNAの塩基間の水素結合を壊し、DNA二重らせん構造はもはや機能を失ってしまう。そのため脳のあらゆる種類の細胞は、細胞死を起こす可能性が高まり、脳機能の要である神経回路網の異常の原因となる。認知機能の低下、運動機能の低下など、子どもの脳の発達を妨げるだけでなく、大人の脳機能も低下し、認知機能がトリチウム被曝によっておかしくなる可能性がある。

 

 さらに、トリチウム汚染による神経細胞死は、認知機能の低下、老化関連脳疾患を起こす加齢以外の1つの原因となる。ヒト脳の主役、神経細胞は記憶が何十年も保たれるように、他の細胞より格段に長生きで入れ替わりにくく更新されない。大国の核実験による放射性物質の蓄積もあるが、日本ではアルツハイマー病、パーキンソン病ばかりでなく、統合失調症や一般の精神疾患も、福島事故以後日本で急に増えている。

 

 発達障害、アルツハイマー病など脳関係の疾患については、「トリチウムの脳細胞への長期蓄積による神経細胞などの異常、脳機能への影響の原因」とすれば説明できる。しかも脳では一般の脂肪組織ではなく、特に神経情報をはこんでいる電気コード(軸索)に残留/蓄積するので、他の組織と違い、脳神経の機能回路に与える影響が甚大で、老化関連脳疾患、発達障害が将来、更に増える危険がある。

 

 記憶など高次機能に肝心の「シナプス」の代謝は、主に細胞体から順行、逆行する軸索流の各種成分で保たれているので、神経回路網など脳の機能に障害が起こるのは当然だ。シナプスの伝達物質が出る接合部は軸索(絶縁体としてのミエリン)に覆われていないが、軸索のミエリン被覆がどのくらいシナプス部に近いのかは、今まで研究者が余り重要と思わなかった。トリチウムが脳へ特に毒性をもつことは確かだが、まだ研究が少なく,良く分かっていないとされている。
2020年1月31日