設立主旨

1 環境脳神経科学情報センター設立の社会的必要性

 

 昨今の日本社会での一般の人々の最大の願いは、本人や家族の「健康と安全」であろう。ことに最近患者数が増加して入る病気は、ガン、高血圧、糖尿病など生活習慣病といわれるもので、遺伝の影響よりも、食べ物、居住環境、運動など広い意味での「環境」が主な原因になっているものばかりである。これも激増している、アルツハイマー病を含む認知症、花粉症や化学物質過敏症などのアレルギー性の病気、子どもの脳の発達障害なども「環境」の影響が大きい、いわば「環境病」と言える。
ことに脳神経系は神経毒性を持つ人工化学物質に弱く、脳神経科学の遅れもあり、重要な情報は今だに日本社会では広まっていない。過去には、有機水銀で汚染された海産物による水俣病の悲劇を始め、現在では、農薬で汚染された農産物による発達障害など各種の脳の機能異常など、食べ物や環境汚染化学物質の安全性や健康への影響は,長い間、不明とされていた。
「健康と安全」をキーワードとするさまざまな「環境」情報は、新聞、週刊誌、テレビなどマスコミに連日報道されている。漢方薬を含む治療薬の効能や副作用情報だけでなく、健康食品などが「〇〇はボケに良い」と宣伝され、また、「××がコレステロール低下に良いらしい」など民間療法の口コミ情報も氾濫している。
 しかし、環境汚染物質の安全性や、これらの健康食品や民間療法が本当に健康に良いのか、安全性に問題がないのか、など一般の関心のある人々が本当に必要とする科学的データに基づく情報はほとんどない。あっても、分かりにくい専門表現のままであったり、「安全性は問題がないとされている」といった中身のない古い情報のままだったりする場合を多くみかける。
 一般にも、口コミは勿論、多くのマスコミ報道でさえ、それらの情報の確かさや「なぜボケに効くのか」などの科学的根拠は、現実には全くといっていいほど示されていない。例えば、アガリクスの発ガン性が指摘されたように、健康に良いと宣伝された民間療法にも、新しい研究成果により、いろいろ問題があることが明らかにされる例が非常に増えている。医師も、昔は主観的に良いと思った治療法、治療薬を使っていたが、今では日本の医学界でもEBM(Evidence based medicine:科学的根拠による治療)が米国から導入され、治療法。治療薬などの有効性、副作用などの科学的根拠を示す論文・情報の重要性が広く指摘されている。「健康と安全」に関する広い意味での「環境」情報でも、今までの漠然とした主観的判断を排除し、審査を経た研究論文をもととした科学的評価、客観性を導入する時代になっている。
 この環境脳神経科学情報センターの主提案者は、東京都神経科学総合研究所(2011年、東京都医学総合研究所に統合)に長年勤務し、ヒトが人であることの本態である脳の高次昨日の基盤である記憶・学習の分子メカニズムを研究するかたわら、文部科学省の重点研究やCRESTなど国レベルの大型研究プロジェクトの中心メンバーとして、アルツハイマー病/など認知症、パーキンソン病など老化関連の難病研究やLD、ADHD、自閉症など子どもの脳の発達障害の原因、発症機序の研究に取り組んだことがある。これらの病気や障害の原因・治療法研究チームの研究企画委員や研究代表者として、本来の基礎研究の論文だけでなく、病因学(ことに毒性学や疫学)など幅広い、非常に多くの科学論文を読みかつ評価する責務があり、20年間以上奮闘努力した経験を持つ。これらの研究成果の一部は岩波新書の2冊『ボケの原因を探る』、『アルツハイマー病』、河出書房新社の『発達障害の原因と発症メカニズムー脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(木村?黒田純子と共著)などの本として発信してきた。また朝日新聞の連載「科学をよむ」を担当し医学・生物学分野のトピックスを解説し、NHKの『脳と心』シリーズなど多くのテレビ番組に協力したが、これも科学的に正確な情報を一般の方々になるべく理解しやすいように提供することの重要さを認識していたためである。
 さらに東京在住で取材しやすいためもあるが、数十年にわたって非常の多くのマスコミや一般の方から、インタビュー、面会、電話取材、質問を受けた。これらのうち「○○は××に良いというが本当ですか?○○に毒性や危険はないのですか」という「健康と安全」に関する問いが非常に多かったが、ただでさえ忙しい本務で、その殆どは、いちいち調べ答えることは不可能だった。また以前は、インターネットのシステムが普及しておらず、一般の人々に簡便に即時に無償で情報を伝える方法が未発達だったので、書いた一般書の内容に関した新しい重要な情報ですら、改訂増刷の機会を待たねばならず読者にすぐ伝えることはできなかった。
 環境脳神経科学情報センターは、このような経験に基づき、専用の情報サイトをネット上に立ち上げ、マスコミや一般の方々向けに、「健康と安全」に関するオリジナルな研究論文を集め読み評価し、それをかみくだいて、いわゆる“文化系”の人々を含む一般の人々にも分かりやすい的確な最新の情報を、なるべく早く伝えようとする目的を持つ。

 

2.環境脳神経科学情報センターの事業内容

 

・ インターネット検索により、外国主要化学雑誌など最近公表された研究論文を中心にサーチし、キーワードなど英文の基本情報データベースと作る。
・ それらの中から、日本での「健康と安全」環境情報として重要なものを選び、忙しい方でもすぐに情報の全容や意味がわかるように、日本語による全体の短い概要を情報源とともに明示する。より詳しく知りたい方のためには、論文の背景や研究データの内容・結論をやさしく説明し、重要度・信頼度を根拠になる他の論文などを引用しながら解説を加える。
・ これらの情報を順次インターネットサイトに公表し、マスコミ、一般の人々に公開する。