遺伝子組換え作物とは
日常的にスーパーなどで、納豆や豆腐のパックに「遺伝子組み換えでない」の表示を目にすることがあります。遺伝子組換え作物としては、大豆、トウモロコシ、なたね、ワタなどが開発されてきました。
これまでも人間は稲や果物など、人工交配による品種改良を行い、より美味しい品種や環境に強い作物を作ってきました。人工交配でも、植物の遺伝子組換えは起こるのですが、この場合は種を超えた遺伝子組換えは起こりません。
遺伝子組換え作物では、種を超えた遺伝子の組換えを行うことによって人間に「利益」をもたらすと考えられる作物を作ってきたのです。
例えばグリホサートは、植物の代謝に重要な酵素を阻害するので、通常すべての植物を枯死させてしまいます。グリホサート耐性の遺伝子組換え作物のDNAには、グリホサートが効かない酵素を持つ細菌の酵素遺伝子が組込まれ、グリホサートが撒かれても枯れないという仕組みです。別の例では、害虫を殺す細菌の毒素の遺伝子を作物のDNAに組込み、害虫耐性の遺伝子組換え作物も作られました。これらの遺伝子組換え作物は、農薬を撒く回数も少なく、大規模農法が可能で、地球規模の食糧不足の解消になり、農家も儲かると大宣伝されて、米国を中心に、南米、アジア、欧米でもたくさん作られてきました。しかし、予想外の結果がいくつも出てきてしまったのです。
遺伝子組換え作物の6つの問題点
第一に、組換え作物とセットで使用される除草剤グリホサートやグルホシネートが、様々な人体影響を起こす可能性があります。グリホサートは日本では家庭園芸用にも売られ、多用されている除草剤です。草だけに効くという謳い文句で多量に使用されていますが、2015年に国際癌研究機関が、発癌性の可能性ありとしてレベル2Aにランク付けを発表しました。しかし、WHOと国連食糧農業機関(FAO)が合同で、規制内でのグリホサート使用では発癌性はないと発表したので混乱に陥り、現在も議論が続けられています。グリホサートが一定条件下で、発癌性を示すことはWHOも認めている事実で、発癌性以外にも発達神経毒性や生殖毒性も複数報告されており、多量使用による慢性影響が懸念されています。また化学構造を見ると、私たちの脳でも重要な抑制性神経伝達物質、グリシンによく似た構造をしており、ニセ・グリシンとして悪影響を及ぼす可能性も考えられます。
グルホシネートは、人間の脳で主要な興奮性神経伝達物質、グルタミン酸とよく似た化学構造を持っています。帝京大学・藤井儔子らは,グルホシネートを投与したラットが激しく咬み合うなど攻撃性を増すだけでなく,母胎経由で曝露した仔ラットは,普通はおとなしい雌の仔ラットまでお互いにひどく咬み合うなど易興奮・攻撃性を生じることを1999年に報告しました。最近の論文ではグルホシネートが齧歯類のグルタミン酸受容体の一種に作用することが明らかとなり、発達神経毒性も報告されています。
第二に、除草剤グリホサート耐性のスーパー雑草が出現し、害虫毒素耐性のスーパー害虫がすでに生まれてきています。殺虫剤の過剰使用で耐性昆虫が生まれるように、自然界では、一種の動植物に圧力がかかっていったんは死滅したかに見えても、突然変異で耐性を持つ動植物が生まれてくるのは自然の摂理で当然のことです。それで、現在では遺伝子組換え作物を育成するには、スーパー雑草のためにグリホサートだけでなく他の除草剤も一緒に撒かねばならない、スーパー害虫には別の殺虫剤が必要というのですから、意味がありません。
第三に、遺伝子組換え作物のように一種の作物だけを農薬に頼り大規模に産生する工業型の農業は、いったんは収量が上がったとしても、地球の持続可能な生態系に合わず、近年の気候変動にも対応できずに、かえって収穫が減った事例があります。農業は本来、多様な生態系に依存した持続可能な環境中で、農薬に頼らず複合的に作物を栽培するほうが最終的な収量も増加することは、最近世界的にも理解が進み、国際連合食糧農業機関FAOは各国の有機農業の推進を促しています。またOECDも農薬の多量使用は環境破壊や健康影響につながり、持続可能な農業推進には不向きであるとして、農薬の使用量を極力減らすように勧告しています。
第四に、遺伝子組換え作物は、モンサントやバイエルのような多国籍の巨大企業が独占販売をして、種子を農家が再生産することを禁じて、植えるたびに購入するようなシステムを取っているので、巨大企業が儲かるだけで、農家は搾取される構造になっているのです。現在の日本では遺伝子組換え作物はほとんど作られていないので、社会問題化していませんが、2016−7年には世界のあちこちで、巨大企業モンサントに抗議し、遺伝子組換え作物の使用に反対した農民や一般市民の抗議活動が大規模に行われました。
第五に、遺伝子組換えの生態系への影響があげられます。遺伝子組換え作物は管理下に置かれ、通常の農業と共存できるとしていますが、実際には野生の植物と自然交配して、自然界に汚染を起こしたケースが400件もあるそうです。いったん自然界に流出した、遺伝子組換え作物は回収不可能です。
第六に、組換え遺伝子を持った遺伝子組換え作物自体の安全性の問題があります。企業側は組み込んだ遺伝子は、人間には安全と主張しており、安全試験も行っていると言っていますが、食べ物だけに長期に摂取した場合の影響が懸念されます。遺伝子組換え作物を動物に長期投与した結果、発癌を促す可能性を指摘した論文が2012年に出されて注目されましたが、論文内容を精査した結果、使用した動物数が少ないこと、もともとラットは自然に癌が発症しやすい系統を使ったこと、などから発癌の可能性とはいえないとして、論文はいったん撤回されました。さらに2年後この論文は他の学術誌に掲載され、また論議の的となっています。遺伝子組換え作物自体に、発癌性のような毒性があるのか否か、まだはっきり限定することはできませんが、組み込んだ遺伝子が予期せぬ影響を起こす可能性は否定できません。
もともと遺伝子は、体内で一つの役割を単独で果たすわけではなく、それぞれの組織で他の遺伝子群と関わりながら、多様な働きを担っていることが分かっていますので、外来の遺伝子も人間が期待する役割だけを担うとは断定できません。人間の技術開発は進んだとはいったものの、いったん組み込んだ遺伝子の働きをすべてコントロールできるほどのものではないのが現状です。外来性の遺伝子が、予想外の働きをする可能性があるのです。以上6点の理由から、遺伝子組換え作物の安易な推進は現段階では問題が多いと考えられます。
遺伝子組換えの技術は、除草剤耐性や害虫への毒素を組み込んだもの以外にも、栄養素を高産生させるような遺伝子操作や、悪環境に耐性を持つ遺伝子操作、養殖魚などの発育をよくするような遺伝子操作など、多角的に研究が進んで、実用化されているものもすでにあります。従来行われてきた人工交配などによる品種改良に準ずるような、遺伝子組換えの可能性も考えられまし、これら全てを否定するつもりはありません。ただし、遺伝子組換えを用いた食品の開発は、長期的な健康影響、生態系への影響などを十分考慮し、後から取り返しがつかないような事態にならないよう、対応することが必要と考えます。
グリホサート、グルホシネートの化学構造
遺伝子組換え作物用のグリホサート、グルホシネートの化学構造
グリシン、グルタミン酸は、非必須アミノ酸でタンパク質の成分でもありますが、どちらも重要な神経伝達物質でもあります。
グリシンは抑制性神経伝達物質、グルタミン酸は興奮性神経伝達物質として、脳神経系で重要な役割をしています。
グリホサート、グルホシネートは、グリシン、グルタミン酸にリン酸が結合した簡単な構造をしていますが、だからこそ人間や生態系に悪影響を及ぼしている可能性が高いのでしょう。
詳しい毒性については、それぞれの項目をご覧ください。
グリホサート除草剤グリホサートの毒性
グルホシネート除草剤グルホシネートのヒトへの毒性