人工香料による健康被害

人工香料の多用が問題となってきています。日本では強い人工香料の入った芳香剤や洗濯柔軟剤などが多種類販売され、一方で匂いを消すための消臭剤がたくさん売られています。これらの匂いに関わる人工化学物質によって気分が悪くなったり、体調不良になったりする人が増えています。消臭剤といっても、匂い物質を消すのではなく、消臭剤に含まれている化学物質で覆ってしまうだけですから、目に見えず匂いを感じなくても、空気中に複合化学物質が存在して息とともに吸い込んでいることになります。

 

経気で入る物質の中でも、匂い物質は鼻の内部にある特殊な神経細胞である嗅細胞の受容体に結合して、その信号が直接匂いを感じる脳領域に伝達されるので、脳への影響が大きいのです。匂い物質の脳への信号伝達は、匂いを感じる大脳皮質嗅覚野に直接伝達する経路もありますが、大脳辺縁系と呼ばれる脳でも本能や自律神経系に関わる領域に伝達する経路があります。この大脳辺縁系には、情動に関わる扁桃体という領域があり、匂いの刺激は扁桃体に直接伝達します。

 

扁桃体は、脳の進化の過程でも古い領域で、喜怒哀楽の感情を伴った記憶を司っています。匂いの刺激は情動の記憶を司る扁桃体に繋がっているため、ごく微量な匂い物質の刺激でも不快になったり、怖かった記憶を思い出したり、逆に楽しい記憶が蘇ると考えられます。

 

ヒトの匂い物質の受容体は約400種あり、個々の嗅細胞に一種類ずつ発現していますが、嗅細胞の数や発現パターンは個々に異なるため、匂いに対する反応は個人差がとても大きくなるのです。ですから、化学物質過敏症は一部から「精神症状では」と誤解されていますが、微量の化学物質曝露で様々な症状が現れることは、科学的に十分理解できることです。

 

嗅覚系は、香料だけでなく、有害な環境化学物質の曝露も問題です。農薬など有害な環境化学物質を曝露した際、嗅覚神経経由で脳内嗅覚系が短期間に直接曝露されるので、血液脳関門を介した緩慢な脳内侵入と違い、大きな障害を起こす可能性があります。また嗅神経は、頭蓋骨に開いた穴を通って脳内に繋がっており、有害な化学物質や微粒子が嗅細胞に取り込まれて、拡散や軸索輸送により脳内に直接侵入する可能性も指摘されています。

 

もともと人間以外の動物では匂い刺激は生存に必須の情報で、嗅覚系の発達が著しく、脳内で占める体積も大きいのですが、人間では嗅覚系よりは視覚系や聴覚系が進化しました。しかし嗅覚系は人間でも大変重要で、脳内の情動や本能などの領域に直接つながっているため、環境省の調査では、微量のホルムアルデヒドの長期曝露で、嗅覚系の神経細胞の異常興奮、ホルモンの中枢・下垂体でのホルモン産生の障害、記憶に重要な脳・海馬での神経伝達の異常が確認されています。実際、匂いに敏感で、人工的な匂いにより被害を受けている方がいること、また症状に表れなくとも匂い物質が私たちの脳に予想より大きな影響を及ぼすことを、私たちは理解する必要があるでしょう。

 

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ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議パンフレット