2021年11月TBS報道特集でネオニコの人への影響が放映

2021年11月6日 TBS報道特集で、ネオニコの人への毒性について特集番組が放映されました。
木村ー黒田は2012年PLOS ONEの論文でネオニコに発達神経毒性の可能性があると示したことを話しました。

 

現在youtubeで動画が見られます。こちら

 

また番組の概要は以下に紹介されています。こちら

TBS報道特集への農薬工業会の見解への反論1 ネオニコの哺乳類への発達神経毒性は明らか

2021年11月6日のTBS報道特集「ネオニコチノイドの人への影響」が報道された後、農薬工業会が見解を発表しましたが、間違いや不適切、不勉強な内容が多いので、当会の木村ー黒田純子に関連するところについて意見を掲載します。

 

すでに山室真澄先生、星信彦先生に関する見解への意見は、以下のサイトに別個詳しいご意見が出ていますのでご参照ください。
山室真澄先生ブログこちら
星信彦先生神戸大研究室HP;こちらPDFバージョンはこちら ダウンロード

 

木村―黒田に対する見解への見解の概要
農薬工業会は、EFSAが2013年、我々の論文を評価し、発達神経毒性の可能性有りと報告したことを否定していますが、EFSAは2016年、2013年の発表に基づきネオニコ系アセタミプリドの基準値を下げるよう提言し、2018年一日摂取許容量、急性参照用量を下げ規制を強化しました。
報道特集でもEUのスポークスマンが、ネオニコの規制強化に我々の研究が影響したことを明言しています。
また、農薬工業会が示した2016年(オンライン版2015年)のネオニコの発達神経毒性を否定的に評価した総説の筆頭責任著者は農薬企業バイエルの研究者、次に責任のあるラストオーサーは農薬企業シンジェンタに所属している研究者です。
農薬企業の研究者だからといって正しい情報を発信するかもしれませんが、この総説の内容には以下に詳しく示すように不正確な点があります。
さらにこの総説の発表以降、ネオニコには発達神経毒性があることを示す研究が多数発表され、2021年発表されたスペインの研究者の総説では、250もの論文を検証した結果、ネオニコは哺乳類の脳の発達に悪影響を及ぼすだろうと結論付けています。

 

詳細は以下
農薬工業会の見解(青字部分)
D 木村−黒田氏の論文(2012年)の紹介の後に、EFSA(欧州食品安全委員会)が評 価がEUによるネオニコ規制に一定の影響を与えたとした後に、ケールスマカー報道官が「この(木村−黒田の)研究結果では2種類のネオニコが人の神経や脳にダメージを与える可能性があることが示されました。この研究と最新の科学に基づき我々は食品に残留するネオニコの基準値を引き下げるなど厳しくする措置をとりました」の説明。
木村―黒田論文の翌年2013 年に、欧州食品安全機関 EFSA がこれを取り上げて、この研究だけでは不十分だけれども、他の論文などもあわせて考慮して、ネオニコチノイ ド系農薬にはヒトでも発達神経毒性の可能性があるとした見解を発表しています。その見解を受けて、ネオニコチノイド系農薬の発達神経毒性に関する総合的考察が専門家により行われ、2015 年に下記の総説が公表されています。総説では、EPA ガイドラインに従ったラットを用いた発達神経毒性試験(GLP試験)の包括的なレビューを行った結果、哺乳類及びその他の脊椎動物の発現するニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR 受容体)に対する親和性が低く、高用量での所見は全身毒性と関連しており、総説で評価されたネオニコチノイド系殺虫剤のいずれも発達神経毒性物質であることを示唆する影響は認められないとしています。
参考:総説は以下のサイト。http://dx.doi.org/10.3109/10408444.2015.1090948
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4732412/

 

これに対する木村ー黒田の意見

 

農薬工業会が、ネオニコに発達神経毒性がないとして引用している2015年(オンライン版は2015年、正式には2016年)の総説ですが、この論文のファースト・オーサーであり、責任著者であるSheets氏は、農薬会社バイエルの研究所の所属で、次に責任のあるラスト・オーサーPeffer氏も、やはり農薬会社のシンジェンタ所属です。利益相反の関わる研究者であったとしても、正しい情報を記載する可能性は否定しませんが、以下この総説には不正確な記載や問題点があります。
●この総説では、何度も“ネオニコチノイドが血液脳関門を通過しにくいので脳に入りにくく安全性が高い”と強調していますが、以下の2つの論文で7種のネオニコチノイドをマウスに腹腔投与した直後、数分内で脳に侵入することが示されています。また胎児では血液脳関門が未発達なので、化学物質はたやすく胎児の脳に侵入することが知られています。
Ford KA, Casida JE. Unique and common metabolites of thiamethoxam, clothianidin, and dinotefuran in mice. Chem Res Toxicol. 2006 Nov;19(11):1549-56.
Ford KA, Casida JE. Chloropyridinyl neonicotinoid insecticides: diverse molecular substituents contribute to facile metabolism in mice. Chem Res Toxicol. 2006 Jul;19(7):944-51.

 

●農薬工業会は“哺乳類及びその他の脊椎動物の発現するニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR 受容体)に対する親和性が低く”と記載していますが、結合実験は人工的な一定の条件下で行われるため、生体内での結合性を示したものではありません。また、この総説が出た時点では、人を含む哺乳類の全てのニコチン性受容体(10種以上のサブグループが存在)への結合性を調べていません。
2011年にLiらは、イミダクロプリド、クロチアニジンがヒトα4β2ニコチン性受容体(脳で最も多く発現しているサブタイプ)に興奮性作用やアセチルコリンの作用を攪乱することを示した論文 を既に発表しており、ネオニコがヒトの脳に影響を及ぼすことは示唆されていました。EFSAが2013年にネオニコ2種、イミダクロプリド、アセタミプリドに発達神経毒性の可能性有とした提言では、この論文を引用していますが、Sheetsらの総説では、この重要な論文を引用していません。
2018年の論文では、ネオニコ3種(チアクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム)が哺乳類のα7型ニコチン性受容体に作用することが報告されました。α7型ニコチン性受容体は種を越えて類似性が高く、脳神経系を含み多様な組織に存在して機能しているため、ネオニコが哺乳類に多様な毒性を発揮する可能性が明らかとなってきています.
さらに2021年の論文では、アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアククロプリドが、人由来の神経細胞培養系で、α7型やα4β2型などのニコチン性受容体に興奮作用を起こしたり、低用量で受容体の機能に影響を及ぼすことを明らかにしました。この論文では、我々の2012年の論文を引用し、ネオニコが人の脳発達に悪影響を及ぼす可能性があると記載しています。
Li P et al.  Activation and modulation of human α4β2 nicotinic acetylcholine receptors by the neonicotinoids clothianidin and imidacloprid. J Neurosci Res. 2011 Aug;89(8):1295-301.
Cartereau, A et al. Neonicotinoid insecticides differently modulate acetylcholine-induced currents on mammalian α7 nicotinic acetylcholine receptors. Br J Pharmacol. 2018 Jun;175(11):1987-1998.
Loser D, et al. Functional alterations by a subgroup of neonicotinoid pesticides in human dopaminergic neurons. Arch Toxicol. 2021 Jun;95(6):2081-2107.
ニコチン性受容体の重要性については、2016年に環境ホルモン学会講演会で、発表した資料を公開しています。詳細は以下を御覧ください。
https://environmental-neuroscience.info/free_paper/2016neonicotinoid%20review.pdf
●この総説で示しているEPAの発達神経毒性試験は、米国環境保護庁で1998年に決められたもので、OECDと基本的にほぼ同じ古い試験法で、高次脳機能への異常などを調べるには不十分です。
●この総説中に、この時点で発達神経毒性に関する研究は少なく、評価が限定的で不十分であると記載しています(186ページ左カラム下から16行目)。つまりネオニコに発達神経毒性の可能性が無いとも、有るとも結論付けるには、まだ確定できないと認めていることになります。

 

また、この総説が公表された時点では、動物実験などが十分でなく、発達神経毒性が明らかでないことを示したとしても、総説が発表された2015年以降、ネオニコが発達神経毒性を示す学術論文や総説が多数でていますので、以下に紹介します。
さらにEFSAは、この発達神経毒性を否定するような総説が出たにも関わらず、2016年11月、アセタミプリドのADI(一日摂取許容量)を現在の日本の基準である0.071mg/kg/dayから、0.025mg/kg/dayと3分の1に、ARfD(急性参照用量)を0.1mg/kg/dayから0.025mg/kg/dayと4分の1に減らすよう提言して、ECは2018年に規制を施行しました。
以下のサイトには、アセタミプリドは2013年のEFSAが発達神経毒性の可能性ありとした結果を踏まえて、基準を下げたことが記載されています。つまり農薬工業会が指摘した農薬会社絡みの総説が出ても、EUでは、ネオニコ系のアセタミプリドやイミダクロプリドの発達神経毒性を否定しなかったのです。
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4610
https://ec.europa.eu/food/plant/pesticides/eu-pesticides-database/active-substances/?event=as.details&as_id=1050
2013年にEFSAが私どもの論文を評価し、ネオニコ系アセタミプリド、イミダクロプリドに発達神経毒性の可能性ありとした提言は、以下のサイトで読めます。
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.2903/j.efsa.2013.3471

 

2015年以降、ネオニコの発達神経毒性を示す学術論文や総説が多数報告されていますが、以下にいくつか情報を載せます。
総説
1. Carmen Costas-Ferreira & Lilian R F Faro. Neurotoxic Effects of Neonicotinoids on Mammals: What Is There beyond the Activation of Nicotinic Acetylcholine Receptors?-A Systematic Review. 1Int J Mol Sci. 2021 Aug 5;22(16):8413.
ネオニコ系農薬が哺乳類ニコチン性アセチルコリン受容体に作用して、神経毒性や発達神経毒性を示す可能性があると指摘している。多種類ある哺乳類のニコチン性受容体は、多様な機能を担っており、脳の発達に重要であることも明らかになっているとしており、子どもが恒常的にネオニコに曝露している状態は危険だとしている。
この総説は2021年8月公開された最新のもので、引用文献が250にも及び、星先生、平先生、木村―黒田の論文も引用に入れて、個々の学術論文についても紹介している。
2.Jean-Noel Houchat et al. An Overview on the Effect of Neonicotinoid Insecticides on Mammalian Cholinergic Functions through the Activation of Neuronal Nicotinic Acetylcholine Receptors. Int J Environ Res Public Health. 2020 May 6;17(9):3222.
この総説では、ネオニコチノイドが哺乳類の中枢や抹消神経系のニコチン性アセチルコリン受容体に作用して、阻害・撹乱作用を起こし、神経毒性や神経系の難病などに関わる可能性を指摘している。
3. Thompson DA, et al. A critical review on the potential impacts of neonicotinoid insecticide use: current knowledge of environmental fate, toxicity, and implications for human health. Environ Sci Process Impacts. 2020 Jun 24;22(6):1315-1346.
ネオニコ系農薬は幅広く使用されており、環境影響、人体影響が懸念されている。人の尿中にも高頻度に検出され、基準内なので安全だとされているが、慢性曝露影響が懸念されている。神経毒性だけでなく、免疫毒性、生殖毒性なども報告されており、人間の健康への影響が懸念されるとしている。
4. Cimino AM et al. Effects of Neonicotinoid Pesticide Exposure on Human Health: A Systematic Review. Environ Health Perspect. 2017 Feb;125(2):155-162.
ネオニコの人への毒性に関する2005−2015年までの論文86件を解析し、中毒・中毒死を起こしたケース、平先生方の研究で亜急性中毒を起こしたケース、子どもの発達に悪影響を及ぼした疫学研究(心臓奇形、無能症、自閉症)などの情報を示している。結論では、ネオニコはヒトへの毒性が懸念されるため、詳細な研究が必要としている。

 

動物実験などによるネオニコの発達神経毒性を示す学術論文
1.Sano K et al. In utero and Lactational Exposure to Acetamiprid Induces Abnormalities in Socio-Sexual and Anxiety-Related Behaviors of Male Mice. Front Neurosci. 2016 Jun 3;10:228.
日本の国立環境研究所の論文で、無毒性量のアセタミプリドを母体経由で曝露した雄仔マウスが行動異常を起こした。日本語で以下の公式サイトから公開情報あり。
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20160603/20160603.html
「ネオニコチノイド系農薬の発達期曝露が成長後の行動に影響を与える可能性を動物モデルで示唆」2016年6月
2.Hirano T, et al. NOAEL-dose of a neonicotinoid pesticide, clothianidin, acutely induceanxiety-related behavior with human-audible vocalizations in male mice in a novel environment. Toxicol Lett. 2018 Jan 5;282:57-63.
神戸大・星先生方の論文で、無毒性量のクロチアニジンが神経系に異常を起こすことを明らかにした内容。「報道特集」で放送されたように、成熟マウスが鳴くことは通常起きないことで、無毒性量のクロチアニジンの影響の大きさが確認された。
3. Kimura-Kuroda J et al. Neonicotinoid Insecticides Alter the Gene Expression Profile of Neuron-Enriched Cultures from Neonatal Rat Cerebellum.
Int J Environ Res Public Health. 2016 Oct 4;13(10):987.
ネオニコ系イミダクロプリド、アセタミプリドをラットの発達期神経細胞培養に添加して、2週間培養すると、脳の発達に重要な遺伝子や自閉症関連遺伝子の発現に異常が起こった。このことから、ネオニコ2種は子どもの脳発達に悪影響を及ぼし、発達障害増加に関わる可能性が示唆された。
4.Yoneda N et al. Peripubertal exposure to the neonicotinoid pesticide dinotefuran affects dopaminergic neurons and causes hyperactivity in male mice. J Vet Med Sci. 2018 Apr 18;80(4):634-637.
神戸大・星先生方の研究。雄マウスの成長期(3-8週)にネオニコ系ジノテフラン無毒性用量を投与すると脳の黒質でドーパミン神経細胞に異常が起こり、無毒性量以下でも用量依
存的に多動が起こった。この研究から、ジノテフランにも発達神経毒性があることが明らかとなった。日本ではジノテフランが最も多く使用されており、子どもの尿中にも高頻度に検出されていることから、子どもへの影響が懸念される。
5.Hirano T et al. Aging-related changes in the sensitivity of behavioral effects of the neonicotinoid pesticide clothianidin in male mice. Toxicol Lett. 2021 May 15;342:95-103.
神戸大・星先生方の研究。老齢マウスと成獣マウスに無毒性量のクロチアニジンを投与すると、ともに行動が不活発になるが、老齢マウスではより影響が大きかった。老齢化マウスでは血中や脳に、クロチアニジンやその代謝物が多く検出された
6.Nimako C et al. Simultaneous quantification of imidacloprid and its metabolites in tissues of mice upon chronic low-dose administration of imidacloprid. Chromatogr A. 2021 Aug 30;1652:462350.
北海道大学、平先生方のグループの研究。無毒性量のイミダクロプリドを24週間、餌経由で投与した雄マウスで、血中、精巣、脳などの組織に、代謝物デスニトロ・イミダクロプリドが検出された。ネオニコは代謝物の毒性が高くなることがあること(全ての代謝物ではないが)が知られており、デスニトロ・イミダクロプリドは毒物指定のニコチンとほぼ同じ毒性をもつため、代謝物の毒性が懸念されている。

 

疫学論文
Gunier RB et al. Prenatal Residential Proximity to Agricultural Pesticide Use and IQ in 7-Year-Old Children. Environ Health Perspect. 2017 May 25;125(5):057002.
米国の研究。有機リン、カルバメート、ピレスロイド、ネオニコチノイド、どの殺虫剤も胎児期に曝露すると、7歳になった子どものIQが有意に低下し、脳の発達に悪影響を及ぼすと発表。

 

上記以外にも多数、ネオニコが発達神経毒性を示す動物実験が報告されています。また発達神経毒性以外に、生殖毒性、免疫毒性を示す論文も多数報告されています。ネオニコの標的であるニコチン性アセチルコリン受容体は、生物にとって普遍的な生理活性物質で、脳神経系以外にも悪影響を起こすことが明らかになってきているのです。
以上、農薬工業会が推奨する2015年(紙版2016年)に発表されたの総説一つだけにこだわって、ネオニコに発達神経毒性がないとしているのは、その後、新しく報告されている学術論文や総説を全く見ていない不勉強か、認識不足といわざるを得ません。科学や研究は常に進展していますので、それを踏まえて、農薬の毒性を論議すべきでしょう。

 

TBS報道特集への農薬工業会の見解への反論2 予防原則の重要性

TBS報道特集への農薬工業会の見解のうち、予防原則についての意見
予防原則については、木村ー黒田個人宛のものではありませんが、大事な内容なので、意見を公開します。
農薬工業会の見解
E 「予防原則」“疑わしきは規制や禁止を”という考え方の説明。
日本で登録され使用される個々の農薬については、農薬取締法に基づいて国が安全性の審査を実施し、登録が行われるとともに、適正な使用と相まって国民や環境へのリス クは管理されています。
なお、複数の専門家が用いられる「予防原則」という言葉は「precautionary principle」 の日本語訳として用いられているものと推察します。リスク・コミュニケーション研究者の最近の見解は、下記に示したように、「予防原則」という言葉は誤訳であり、原文の趣旨を正確に訳した「用心のための」という言葉が使われるようになってきています。
参考:木下冨男氏(京都大学)著「リスク・コミュニケーションの理想と技術」 precautionary principle の趣旨は、「因果関係が科学的に完全に立証されていなくて も、人の健康や環境に危害を及ぼす可能性がある時は事前に対応する必要があること、 ただしそれは従来型の予防ではなく、民主的(市民参加)で、慎重に、先見的な、事前の防護のための意思決定を含んでいる」という原則であろうか。少しでも危険の可能性があれば直ちに規制して事業を停止させるといった、乱暴な議論を意味している訳ではない。

 

木村―黒田の意見
過去において、水俣病、薬害エイズ事件などで、科学的立証が明らかでないとして、被害が甚大になった歴史があります。このように、ある程度危険性が明らかになったケースにおいては、科学的に全てが明らかになっていなくとも、予防原則に則り規制が必要なことは明らかでしょう。地球温暖化についても、科学的に不明な点はいまだにありますが、実際に起こっていることは事実で、二酸化炭素の放出だけが原因でないとしても、これまで先進国が対応していなかったために、重大な事態になっていることは確かな事実です。ある程度危険性がわかった段階での予防原則による規制は重要といわざるをえません。
ネオニコチノイドについては、蜂、トンボなどの昆虫、鳥類などへの悪影響は科学的に明らなっており、世界では規制が進んでいます。ヒトへの影響、ことに発達期の子どもへの発達神経毒性は、げっ歯類を用いた動物実験では無毒性量でも行動異常を起こし、培養実験では脳の発達に重要な遺伝子発現阻害などで、実証されてきています。人間の子どもの脳発達への影響については、疫学研究が出てきていますが、まだ研究が不十分であるかもしれません。しかし、完全な科学的立証を待っていては、取り返しがつかない事態になります。

 

以上のように、ネオニコチノイドについては、すでに危険性が十分明らかになっている事項であり、予防原則に則り、規制を進めないことこそ、非科学的といわざるをえません。農薬工業会が木下冨男氏の引用しているような“少しでも危険の可能性があれば、直ちに規制して事業を停止させる”といった、乱暴なことを実行することを推奨しているわけでは決してありません。ネオニコチノイドの環境破壊、ヒトを含む哺乳類への危険性が、少しではなく十分わかってきたのが現状だと思います。

 

有機リン系の代替として開発されたネオニコチノイド

有機リン系殺虫剤は神経毒性が高く、ヒトへの毒性も懸念されたことから、開発されたのがネオニコチノイド系殺虫剤です。
新しいニコチンという意味で、煙草に含まれる毒物ニコチンによく似た構造をしています。


ネオニコチノイドのこれまでの総説

ネオニコチノイドの生態影響、ヒトを含む哺乳類への影響についての詳しい説明を知りたい方は、下記のフリーダウンロードの総説をご覧ください。

 

以下は、2011年、2016年の環境ホルモン学会の講演会で発表した講演要旨を改変したものです。
・ 神経系を撹乱する農薬と子どもの発達障害  -ネオニコチノイド・有機リン系農薬の危険性-                                        2011年当時の所属 東京都神経科学総合研究所 木村-黒田純子
     ダウンロード

 

・ ネオニコチノイド系農薬の影響評価:作用機構と影響インパクト ーネオニコチノイドのヒト・哺乳類ニコチン性アセチルコリン受容体への作用と影響
     2016年当時の所属:公財)東京都医学総合研究所 木村-黒田純子
ダウンロード

 

2016年以降もネオニコチノイドの研究は進んでおり、次の記事以降に記載しますので、是非ご覧ください。