化学物質過敏症は現代社会への重大な警告

 化学物質過敏症(CS:Chemical Sensitibity, MCS: Multiple Chemical Sensitivity)は、農薬などの有害な化学物質を大量に曝露されたり、微量でも繰り返し曝露された後に発症する疾患で、2009年厚労省で疾患登録されました。発症すると、様々なごく微量の化学物質に反応して、心身に多様な症状が起こります。現代社会は人工化学物質に溢れているので、日常生活が困難となる場合も多くみられますが、確立した治療法がなく、患者は大変苦労しています。厚労省の2012年研究調査では、成人で化学物質に高感受性を示す人は、4.4%(約450万人)、準・高感受性の人は7.7%(約800万人)と報告されており、未成年者も含めると患者数はさらに膨らみます。

 

発症に至る詳細はまだ分かっておらず、。症状を起こす化学物質が多様でごく微量であることから、心因性とする人がいますが、それが間違いであることは科学的に立証されています。人体が有害な化学物質に閾値を超えて曝露すると、心身を守るために免疫系、脳神経系などのあらゆる防御反応が働くようになり、その後は微量な化学物質によっても防御反応が働き、多様な症状が起こると考えられます。

 

なかでも香料の曝露で起こる多様な症状については、化学刺激に反応する嗅覚受容体やTRP(Transient receptor potential)受容体が、嗅覚神経系以外の組織に存在して多彩な機能を担っていることから説明できます。TRP受容体は、化学物質、熱、機械刺激、浸透圧など様々な刺激に反応する受容体で、種類が多く多様な機能を担っている重要な受容体です。嗅覚受容体は、血管では血圧を調節し、腸では神経伝達物質セロトニンの放出に関わると報告されており、TRP受容体は脳、内臓、筋肉など多組織に存在して多様な機能を担っています。香料は嗅覚神経のこれらの受容体を介して精神症状を起こし、血中に入った香料は全身に送られて、各臓器の受容体群に結合して、血圧の変動、消化器系の異常、筋肉痛など多様な症状を起こす可能性が考えられます。これらの受容体の発現パターンは個々に異なるので、香料に無反応な人もいれば、多様な症状に苦しむ人がいることは科学的に説明が付くことです。

 

化学物質過敏症については、人工化学物質が人体にどんな影響を及ぼすか考えもせず、経済性、利便性を優先して生産し続けている現代社会への重大な警鐘と考えねばなりません。
文献
・ 石川哲、宮田幹夫. 化学物質過敏症:ここまできた診断・治療・予防法:かもがわ出版;1999, 169pp.
・ 内山巌雄、東賢一. 化学物質に高感受性を示す人の分布の経年変化の評価
厚生労働省:シックハウス症候群の発生予防・症状軽減のための室内環境の実態調査と改善対策に関する研究 平成23年度総括・分担研究報告書より

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